佐賀農家の日々

佐賀県伊万里市で便利になった世の中で、手間のかかるストレスフリーの平飼いで外国産の餌に頼らないこだわりの餌作りを行っています。

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4年で気づいた「僕の力はほぼゼロ」という真実

> 【まとめ】創業4周年を迎えた29歳の平飼い養鶏家が、SNS4.4万フォロワーの裏にあった「妻が赤ちゃんにおっぱいをあげながらスマホを操作していた夜」を告白。成功の本質は戦略ではなく、人への感謝だった。 深夜、次男がおっぱいを飲みながら眠りかけている。妻の腕の中で。その同じ腕が、スマホを握っていた。 --- > この記事では、素ヱコ農園の創業4周年を振り返りながら、SNS成長の真相と「自分の力はほぼゼロだった」という気づきについて、父として語ります。結論は「成功の秘訣は戦略じゃなく、人に恵まれていること」です。 --- ## 100万再生の裏にあった、あの深夜の光景 素ヱコ農園のInstagramフォロワーは今、4.4万人を超えた。一番再生されたショート動画は100万回以上。「SNSが強い農園」として認識してくださる方も増えてきた。 正直に言う。僕にSNS戦略なんてない。 コンサルに相談したことも、バズる投稿のフォーマットを研究したこともない。ただ自分たちがやりたいことを、ありのままに出してきただけだ。だからSNSが得意という感覚は、今も正直ないに等しい。 じゃあ、なぜ伸びたのか。 答えはシンプルで、少し胸が痛くなる話だ。 当時、農園のInstagramには1,000〜2,000人ほどのフォロワーがいた。そこに妻がバトンタッチして運用を引き継いだ。すると——1ヶ月でフォロワーが1万人になった。 妻がやったことは、凝った編集でも、バズり狙いのコンテンツ設計でもない。ただ、僕が書いていたブログの文章と、農園の昔の写真を組み合わせて、リール動画に仕上げてくれただけだ。 でも、そこには僕が見落としていたものがあった。 当時、妻は次男を産んだばかりだった。時間も体力も、もちろんない。それでも深夜、赤ちゃんにおっぱいをあげながら、もう片方の手でスマホを操作して、動画を編集していた。「ちょっとあともう少しだけ頑張るね」と言いながら。 僕が朝起きると、投稿にコメントが溢れていた。 **鶏は毎朝、卵で答えてくれる。妻は深夜、スマホで答えてくれていた。** その光景を思い出すたびに、何かが込み上げてくる。感謝とも、申し訳なさとも、違う何かが。 --- ## 「いい時2割、悪い時8割」でも続けられる理由 創業4年を振り返ると、正直いいことばかりじゃなかった。 期待に応えられなかったこと。判断を誤ったこと。スタッフに余計な苦労をかけたこと。取引先への連絡が遅れたこと。数え上げればきりがない。いい時と悪い時の割合を自分なりに出すと、いい時が2割、悪い時が8割くらいだと思う。 それでも続けてこられたのは、なぜか。 ラジオで話しながら、自分で気づいた。人に恵まれているからだ。それだけだ。 妻だけじゃない。一緒に働いてくれるスタッフ。取引先の方々。応援してくれるお客さん。プリンや焼き菓子、卵のしずく——僕が「こんなの作りたい」と言い出したものを、形にしてくれているのはスタッフたちだ。お菓子づくりに僕はほとんど関わっていない。 僕はやりたいと言っているだけだ。 それを、周りの人たちがもっとすごい形で表現してくれている。 [「これから」](https://saga-nouka.com/entry/2025/05/18/215531)という記事でも書いたことがある。「農業でどうやって稼ぐか」を考えるより、自分が信じる未来に向かって動き続けることの方が大事だと。その感覚は今も変わっていない。でも4年経って、もうひとつ加わった。「信じる未来に向かって動き続けられるのは、人に支えてもらっているからだ」という確信だ。 **自分の力なんて、ほぼゼロだ。それを認めることが、逆に一番強い。** 佐賀県伊万里市。元々8万人いた人口が今は5万人を切っている。地元だけでは売れない。知名度もない。平飼い養鶏は日本の養鶏の数パーセントしかない、まだ珍しい飼い方だ。そんな「ないものづくし」の現実の中で、農園が続いてきた理由を突き詰めると、自分の戦略や努力より先に、人の顔が浮かぶ。 以前、[「豆腐屋のトラックを追いかけた29歳の告白」](https://saga-nouka.com/entry/2026/03/10/210722)でも書いたが、この農園はゼロから、本当に何もないところから始まった。土地なし、金なし、経験なし。おからをもらうために見知らぬトラックを追いかけるような日々から始まった。それが今、ミシュラン三つ星レストランに卵を届けられるようになったのは、自分が賢かったからじゃない。 --- ## なぜ平飼いなのか、という問いへの答え 4周年を振り返るついでに、よく聞かれることにも答えておきたい。 「なぜ平飼い養鶏を始めたのか」という問いだ。 大学時代、1年間オランダに留学した。向こうのスーパーには、普通の棚にオーガニック野菜が並んでいた。日本みたいに「健康意識が高い人が選ぶもの」という感じじゃない。「地球のため」「社会のため」という感覚で、ごく普通に選ばれていた。 食べることは投票だ、という感覚が、オランダには当たり前のようにあった。 それを見て、僕は思った。自分が仕事にするなら、自分が投票したい未来に向かうものがいい。平飼い養鶏は、鶏にとって優しい。地域でロスになっているクズ米やおからを餌にできる循環型農業だ。美味しい卵が生まれ、それが人の栄養になる。この一連の流れに、僕が信じる未来がある。 晴れた日に外に出て、体を動かして、鶏に囲まれながら働く。それが仕事だ。満員電車もない。上司の顔色もない。4歳と2歳と0歳の子供たちと同じ空の下で、末子ばあちゃんと同じ田舎で、妻と一緒に暮らしながら働いている。 **これがレールを降りた先の景色だ。泥だらけだけど、悪くない。** もっとたくさんの人に、素ヱコ農園と関わることで人生が少し楽しくなったと思ってもらいたい。でも正直まだまだだと思っている。自分の未熟さを感じるからこそ、もっと頑張れる。そしてそれを支えてくれる人たちがいるから、続けられる。 4年間、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。 --- ### よくある質問 **Q. 平飼い卵が高いのはなぜですか?** A. 平飼いは鶏が自由に動き回れる広いスペースが必要で、飼育コストが通常の養鶏より大幅にかかります。素ヱコ農園では地域のクズ米やおからを飼料に活用するなど工夫していますが、それでも1個120円という価格は、鶏の福祉と循環型農業を守るための最低ラインです。 **Q. 農業未経験でも就農できますか?** A. できます。僕自身、農学部卒業後に土地なし・資金なし・経験なしでゼロから始めました。ただし「なんとかなる」という楽観論より、「いい時2割・悪い時8割」という現実を受け入れる覚悟が先に必要だと思います。それでも続けられるのは、人に支えてもらえる環境を作れるかどうかにかかっています。 **Q. SNSで農園を広めるにはどうすればいいですか?** A. 正直、戦略より「ありのままを出すこと」が一番だと思います。素ヱコ農園がフォロワー1ヶ月で1万人増えたのも、凝った編集ではなく、日常のブログと写真を組み合わせた素直な発信でした。ただしそれを形にしてくれたのは妻でした。一人でやろうとせず、信頼できる人と一緒に動くことが、結果的に一番強いと感じています。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 LINE登録で裏話が届きます → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio

スーパーの卵が安い本当の理由。その「しわ寄せ」は誰が払っているのか

> 【まとめ】平飼い卵1個120円の「高さ」には理由がある。日本の養鶏の歪んだ構造と、消費を「投票」と捉えるオランダ留学での気づきを、創業4年の養鶏家が語る。 安い卵に、誰かが泣いている。スーパーで1パック200円の卵が並ぶ裏側に、農家の利益が1個5円という現実がある。 > この記事では、平飼い養鶏家・スエコ松本が「卵の価格」を通じて日本の農業構造の歪みを解剖します。結論は「消費は投票だ」。あなたが毎朝手に取る卵は、どんな未来に投じた一票か。 --- 創業から丸4年が経った。 土地もなく、金もなく、経験もなく。祖母の軽トラだけを受け取って、耕作放棄された金柑畑のハウスを手作りで改修し、クラウドファンディングで資金を集め、ゼロから始めた平飼い養鶏。気づいたら4年が経っていた。短いのか長いのか、正直よくわからない。ただ、新規就農の廃業率を考えれば、続けられていること自体、本当にありがたいと思う。 ただ、ここまでの道のりで、ずっと言われ続けてきたことがある。 「卵1個100円?そんなの売れるわけない。」 ## 平均7万羽という数字が意味すること まず、一つ聞いてほしい。 普通の養鶏場が、1農家あたり何羽の鶏を飼育しているか、知っているだろうか。 農水省のデータによると、平均は**7万羽**だ。 7万羽。一瞬、ピンとこないかもしれない。でも、この数字の意味を考えてほしい。7万羽飼わないと「やっていけない」産業だということだ。なぜそうなるのか。答えは単純で、農家が卵1個あたりに受け取る利益が、5円から10円程度しかないからだ。 スーパーで1パック200〜300円の卵が並ぶ。その価格の内訳を想像してほしい。GPセンター(洗卵・選別・包装施設)、運送会社、卸業者、スーパー。農家から消費者の手元に届くまでに、いくつもの「中間」がある。その全員が利益を取った残りが、農家に届く。1個10円にも満たない金額で。 だから大量に産ませるしかない。だから7万羽になる。 **安い卵には、必ずどこかにしわ寄せがある。それは農家かもしれないし、無理やり産まされ続ける鶏かもしれない。** これが、今の日本の養鶏の現実だ。 ## 「なぜ高いのか」を3つに分解する 僕たちの卵が1個120円する理由は、3つある。 **一つ目は、平飼いの手間だ。** 平飼いとは、鶏をケージに入れず、地面の上で自由に動き回らせる飼育方法だ。日本ではまだ数パーセントの農家しかやっていない。広い土地で動き回るから、管理が格段に難しい。餌やり、卵の収集、鶏舎の清掃。バタリーケージ(積み重ねた金属ケージ)で何万羽を一括管理するのとは、手間の次元が違う。 **二つ目は、餌へのこだわりだ。** 以前の記事[「豆腐屋のトラックを追いかけた29歳の告白」](https://saga-nouka.com/entry/2026/03/10/210722)でも書いたが、僕たちは地域の「未利用資源」を餌に使っている。豆腐屋で捨てられるおから、醤油製造で出る醤油かす、漁師さんからのいりこくず、農家からのくず米・くず麦、野菜くず、米ぬか。これらは「捨てるのにもお金がかかる」廃棄物だ。 なぜ廃棄されるかといえば、集めるのが非効率だからだ。豆腐屋に頭を下げる。漁師さんに頭を下げる。醤油屋に頭を下げる。農家に頭を下げる。1軒1軒、直接取引を積み重ねる。この手間賃は、誰も代わりにやってくれない。 **三つ目は、業界構造の歪みを引き受けているからだ。** 7万羽の平均規模が示すように、今の日本の卵の価格体系は、農家が薄利多売を強いられる構造になっている。僕たちはその構造に乗らない選択をした。直接ECで販売し、中間マージンを極限まで削り、その分を鶏の飼育環境と餌の質に回す。1個120円は、この構造への「オルタナティブ」だ。 ## オランダで気づいた「消費は投票だ」という思想 なぜこんな面倒くさい道を選んだのか。その原点は、大学時代のオランダ留学にある。 向こうのスーパーに入って、最初に驚いた。オーガニックの野菜やポテトが、コンビニに相当する店にも普通に並んでいる。日本と比較にならないほど、オーガニック製品が普及していた。 興味を持って、現地の人に聞いてみた。「なぜオーガニックを買うんですか?」 日本でオーガニックといえば「健康のため」「安心安全のため」という答えが多いだろう。僕もそう思っていた。でも、オランダで返ってきた答えは違った。 「社会のためだよ。環境のためだよ。未来のためだよ。」 **消費は投票だ、と彼らは言った。自分が何を買うかは、どんな未来に賛成票を投じるかと同じだ、と。** この一言が、僕の中で何かを変えた。農業をやろうと決めていた理由が、より鮮明になった気がした。 日本でも、同じことができないか。スーパーの卵を買うことが「現在の構造への投票」なら、僕たちの卵を買うことは「別の未来への投票」になれるんじゃないか。だから僕は、卵の価格の裏側を隠さない。生産背景を説明し、鶏の飼い方を公開し、餌の調達先を話す。納得して買ってほしいからだ。 [「これから」](https://saga-nouka.com/entry/2025/05/18/215531)という記事でも書いたが、農業でどう稼ぐかを考えすぎると、ピュアさが失われる気がして嫌だ。でも、株式会社である以上、利益は必要だ。その矛盾の中で、「投票としての消費」という概念は、一つの答えを与えてくれる。価格は手段じゃない。価値観の表明だ。 ありがたいことに今、全国に1,000人近い定期便のお客さんがいる。北海道から沖縄まで、毎月40個の卵を届けている方も多い。「高い」と言われ続けた卵が、今はあるだけ売れる状況になっている。これは、同じ未来に投票してくれる人たちが、少しずつ増えているということだと思っている。 --- 理想とはまだまだ程遠い。循環型農業として、もっとできることがある。餌の調達網も、鶏の飼育環境も、まだ改善の余地だらけだ。資金ゼロ・土地ゼロ・経験ゼロからのスタートで、思いだけで走ってきた4年間だった。 でも、「安い卵が当たり前」という空気を、少しでも揺さぶれているなら。 あなたが次にスーパーで卵を手に取る瞬間、ほんの一秒だけ考えてほしい。この価格は、誰かのしわ寄せで成り立っていないか。自分はどんな未来に、投票したいのか。 --- ### よくある質問 **Q. 平飼い卵が高いのはなぜ?** A. 平飼いはケージ飼育と比べて飼育スペースが広く、管理の手間が格段にかかります。素ヱコ農園ではさらに、地域の未利用資源(おから・醤油かす・いりこくず等)を1軒1軒直接交渉して調達しており、その手間が価格に反映されています。 **Q. 養鶏農家の利益はどのくらい?** A. 一般的なスーパー流通の場合、農家が受け取る利益は卵1個あたり5〜10円程度と言われています。そのため、平均的な養鶏場は7万羽(農水省データ)を飼育しないと経営が成り立たない構造になっています。 **Q. 「投票としての消費」とはどういう意味ですか?** A. オランダのスーパーで現地の人に教えてもらった考え方です。何を買うかは、どんな社会・環境・未来を支持するかという意思表示と同じ、という思想です。オーガニックや平飼い卵を選ぶことは、単なる個人の好みではなく、農業や食の未来への「一票」になり得ます。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 LINE登録で裏話が届きます → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio

ChatGPT→Claude。養鶏経営者が9割方Claudeに切り替えた理由

> 【まとめ】月1,500時間の労働を800時間に半減し、コストを月50万円削減。佐賀の平飼い養鶏家がAI活用で実現した「現場回帰」の全記録。 鶏の世話に時間を使いたくて、事務作業に追われていた。その矛盾を、AIが解いた。 > この記事では、平飼い養鶏経営者がAIを業務に実装した具体的プロセスについて、経営者目線から掘り下げます。結論は「AIは農業の敵ではなく、現場に戻るための道具だ」です。 --- ## 告白:2025年1月1日、僕はAIに課金した 正直に言う。2024年まで、AIをほとんど触っていなかった。 「生成AIが仕事を変える」という話は耳に入っていたし、2024年には佐賀のDX大賞もいただいた。でも実際のところ、毎朝2,000羽の鶏の世話をして、卵を集めて、餌を管理して、発送して、お客さんに返信して——その日々の中でAIを使い倒す余裕は、なかった。 転機は2025年1月1日。元旦にChatGPT Proプランに課金した。月額3万円。 「年の始めにやると決めたなら、やる」というだけの理由だった。大した戦略はない。ただ毎日触り続けた。そこから半年で、うちの経営は変わった。 月の総労働時間:1,500〜1,600時間 → 800時間。 月のコスト削減:約40〜50万円。 売上:ほぼ変わらず。 数字だけ見ると信じがたいかもしれない。でもこれは事実だ。 --- ## なぜ養鶏家がAIを使うのか——「現場に戻りたい」という原点 うちの卵は1個120円する。スーパーの卵と比べれば、3〜4倍の価格だ。 なぜそんなに高いか。単純に、手間がかかるからだ。 平飼いという飼い方は、鶏を狭いケージに閉じ込めず、のびのびと動き回れる環境で育てる。それだけで、一般的なケージ飼いとは比べものにならないほど管理が複雑になる。さらに、餌は地域の農家さん、醤油屋さん、豆腐屋さんから一つひとつ集めた素材で作っている。[手間をかける](https://saga-nouka.com/entry/2022/01/17/214630)ことへのこだわりは、創業当初から変わっていない。 その品質の結果として、銀座のミシュラン三つ星レストラン「ロオジエ」にも届けられるようになった。レビューは4.93/5.0、リピーター率は8割。こだわりは、ちゃんと結果に出ている。 だからこそ、「現場のこだわり」は絶対に削れない。削るべきは、価値を生まない裏側の仕事だ。 伝票の発行。ファックスの管理。産卵率データの入力。メール対応。ECサイトのカスタマイズ。——これらは全て必要な仕事だが、鶏を健康に育てることでも、卵の品質を上げることでもない。バックオフィスの業務が膨らむほど、僕が鶏舎にいられる時間は削られていく。 **現場に時間を使いたい。だからAIを使う。** この順序が、僕にとっての出発点だ。 --- ## 具体的に何を自動化したか——伝票からShopifyまで 抽象的な話より、具体的な話をする。 **伝票発行の自動化** 以前は、Shopifyの管理画面に入り、特定のアプリを起動し、その中で機能を選択し、伝票を出力し、さらに別のツールに転記する——という複数ステップが必要だった。これはパソコンの操作に慣れた人間にしかできない作業で、パートさんに任せるにも習熟コストがかかっていた。 今は、Googleスプレッドシートのメニューをクリックするだけで完結する。ワンツール、ワンクリック。これをClaudeを使って自分たちで作った。 **ファックス管理のスマホ化** 飲食店への卸では、今もファックスで注文が来ることがある。以前は返信漏れや注文の取りこぼしが起きていた。今はファックスがスマホに届き、Googleフォームに記入するだけで「確認しました」のスタンプが自動で押されて返信される。 **産卵率データの可視化** 養鶏において、産卵率は経営の核心だ。鶏が何羽いて、何個産んでいるか。その数字が日々の判断を左右する。[『憂鬱じゃなければ』](https://saga-nouka.com/entry/2021/10/28/205156)でも書いたが、産卵率の変動は売上に直結し、精神的にもきつい。今はスマホでデータを入力すると、即座にグラフと分析結果が出る。異変に気づくスピードが上がった。 **ShopifyのアプリコストをAIで内製化** ShopifyはECサイトの機能をアプリで拡張できる。便利な反面、アプリが増えるほど月額費用がかさむ。以前は年間で100万円弱をアプリ費用に使っていた。 Claudeを使って、必要な機能を自分たちで作り込んだ。結果、この費用がほぼ半額になった。年間50万円の削減だ。しかも、外部アプリより自分たちの業務に合った動きをする。 --- ## なぜChatGPTをやめてClaudeに9割切り替えたのか リスナーから「どのAIツールを使っているか」という質問をもらった。答えは明確だ。**Claude(Claude Code)一択**。残り1割がGemini。ChatGPTの画面は、ここ2ヶ月開いていない。 2025年前半はChatGPT Proプランで毎日触り続けた。それはそれで学びがあった。でも今は、Claude Codeに完全に移行している。 理由はシンプルで、**「エージェントとして動く」**からだ。 ChatGPTは「聞いたことに答えてくれるツール」に近い。ClaudeのCode機能は違う。「ターミナルで自動的にファイルを作り、サービスを構築し、設計思想を渡せばその通りに開発してくれる」。ExcelもPowerPointもWordも、指示すれば作ってくれる。 自分の手足として動いてくれる、という感覚が近い。 **AIは「答えを出す機械」ではなく「一緒に仕事をするパートナー」になった。** これが、2025年に実感した最大の変化だ。 以前「[AIはパートナーになりうるのか?](https://saga-nouka.com/entry/2025/12/13/172924)」でも書いたが、AIとこちらの情報を揃えること、点ではなく線で使うことが精度を上げる鍵だと気づいた。Claudeはその設計思想と相性がいい。 --- ## 人口が減る地方で、農業はどう生き残るか 伊万里市は、これから確実に人が減る。佐賀県全体で見ても、担い手不足は深刻だ。 今の農業の現場は、正直、非効率なことだらけだ。他の経営者と話すたびに思う。「それ、全部自動化できる」と。 でも、それは「人が不要になる」という話ではない。**人がやるべき仕事に、人の時間を使えるようになる**という話だ。 鶏の体調の変化に気づくのは、毎朝鶏舎に入る人間だ。お客さんとの信頼関係を作るのも、人間だ。新しい餌の素材を農家さんと一緒に考えるのも、人間にしかできない。 AIが事務作業を引き受けてくれるから、僕は鶏舎にいられる。子供たちと同じ空の下で働ける。夕方には家族と食卓を囲める。満員電車も、上司の顔色もない。自分で決めて、自分で動いて、自分で稼ぐ。 **農業の未来は、テクノロジーと泥の組み合わせにある。** 僕はそう信じている。 AIを使い始めたのは、世界を変えたかったからじゃない。鶏の世話に、もっと時間を使いたかったからだ。でも結果として、働き方が変わり、経営が変わり、暮らしが変わった。 レールを降りた先に、こんな景色があるとは思っていなかった。 --- ### よくある質問 **Q. 農業や養鶏でもAIは実際に使えますか?** A. 使えます。特に伝票発行・データ管理・メール対応など、繰り返し発生するバックオフィス業務との相性が良いです。専門的なプログラミング知識がなくても、ClaudeなどのAIに指示を出しながら自動化ツールを作ることができます。 **Q. ChatGPTとClaudeはどう違うんですか?** A. どちらも優秀ですが、Claude Codeは「エージェントとして自律的に動く」点が大きく異なります。ファイルを作成したりサービスを構築したりと、指示に対して能動的に作業を進めてくれるため、業務の自動化・内製化に向いています。 **Q. AI導入にはどれくらいのコストがかかりますか?** A. 僕の場合、最初はChatGPT Proプランの月額3万円からスタートしました。ツール費用はかかりますが、うちでは月40〜50万円のコスト削減と労働時間の半減という結果が出ています。まずは無料プランや安価なプランで触り始めることをおすすめします。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 LINE登録で裏話が届きます → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio

## 卵を買うことは、未来への投票だ——1個120円の養鶏家が問う「安さの正体」

スーパーの卵売り場で、1パック200円の卵と1個120円の卵が並んでいたとしたら、あなたはどちらを選ぶか。そして、なぜ安い方を選ぶのか、その理由を本当に考えたことがあるか。 --- ## 農家の手取りは、1個5円 創業から4年が経った。 土地なし、金なし、経験なし。ゼロから始めた平飼い養鶏が、気づけば4年続いている。続けられていること自体、正直まだ少し信じられない気持ちがある。新規就農は難しいと何度も言われた。大企業の内定を蹴って農業を始めると言ったとき、周囲の反応は冷たかった。「そんな高い卵、売れるわけない」と笑った人もいた。 でも今、うちの卵はあるだけ売れる。 1個120円。1パック換算で1,440円。スーパーに並ぶ卵と比べれば、誰がどう見ても高い。僕もそれは認める。ただ、その前に一度だけ聞かせてほしい。スーパーの卵が、なぜあんなに安いのか、考えたことがあるか。 農林水産省のデータがある。日本の養鶏農家1戸あたりの平均飼育羽数は、約7万羽だ。7万羽。想像できるだろうか。これは平均値だ。つまり、7万羽規模でないと「やっていけない」産業だということを意味している。 なぜか。 スーパーに卵が届くまでに、GPセンター(洗卵・選別施設)があり、流通業者がいて、運送会社がいる。その全員が利益を取る。その結果、農家の手元に残る取り分は、卵1個あたり5円から10円程度だと言われている。 5円から10円。 1日に何千個と産ませても、その利益は薄い。だから規模を拡大するしかない。規模を拡大するために、鶏を密集させる。密集させるから、ストレスで病気になりやすい。病気にならないよう、薬を使う。こうして「安さ」は維持される。 安いことが、やさしさとは限らない。 その歪みはどこかに必ずしわ寄せされている。農家の収入かもしれない。狭いケージで一生を過ごす鶏かもしれない。あるいは、じわじわと蝕まれていく土地や水かもしれない。 ## オランダで知った「社会のために買う」という感覚 大学時代、1年間オランダに留学した。 農業の先進国として知られるオランダで、僕が最も驚いたのは農業技術ではなかった。スーパーの棚だった。オーガニックの野菜、オーガニックのポテト、オーガニックのオレンジ。それが「特別なもの」として隅に追いやられているのではなく、普通の棚に普通の顔をして並んでいた。 気になって、地元の人たちに聞いてみた。「なぜオーガニックを買うんですか?」 正直、答えは予想していた。「健康のため」「安心安全のため」「美味しいから」。日本でオーガニックというとそういうイメージだし、ヨーロッパの人たちも似たような感覚なのだろうと思っていた。 でも、返ってきた言葉は違った。 「社会のためだよ」「環境のためだよ」「未来のためだよ」 健康のためではなく、社会のために。自分のためではなく、未来のために。買い物を「投票」として捉えている人たちがそこにいた。自分の消費行動が、社会のあり方を少しずつ変えていくという確信を持って、彼らはレジに並んでいた。 その瞬間、何かが腑に落ちた。 食べることは、生き方を選ぶことだ。 日本に帰ってきてから、その感覚が頭から離れなかった。祖母・末子ばあちゃんの農地で養鶏を始めたのも、突き詰めればあのオランダでの問いに答えようとしているからだと思う。「どっかにしわ寄せがいかない、優しい循環をつくれないか」という問いに。 ## 1軒1軒、頭を下げて集めた餌の話 うちの鶏の餌は、配合飼料だけじゃない。 地域で使われずに捨てられている「未利用資源」を集めて、餌にしている。豆腐屋さんから出るおから、醤油を絞った後の醤油かす、野菜くず、漁師さんからのいりこくず、米ぬか、くず米、くず麦。こういったものを、1軒1軒直接交渉して分けてもらっている。 なぜこんな面倒なことをするのか。 おからは産業廃棄物として処分するとお金がかかる。豆腐屋さんにとっては「困っているもの」だ。うちにとっては「ありがたい餌」になる。醤油かすも、いりこくずも、同じ構造だ。捨てられるはずだったものが、鶏の体を作り、卵になる。 ただ、これは効率が悪い。極めて悪い。 配合飼料なら電話一本で届く。でもおからは腐りやすく、毎日のように取りに行く必要がある。醤油かすは量が安定しない。漁師さんのいりこくずは季節によって出たり出なかったりする。1軒1軒と関係を作り、頭を下げ、スケジュールを調整して、ようやく集まる。 この手間が、価格に乗っている。 でも、この手間こそが「循環」だと思っている。地域の中でぐるぐると資源が回り、どこにも無駄なしわ寄せがいかない仕組み。完璧ではないし、まだまだ理想には程遠い。でも、少しずつ近づこうとしている。 ## 1,000人の定期便が教えてくれたこと ありがたいことに今、全国に1,000人近い定期便のお客さんがいる。北海道から沖縄まで、毎月40個の卵を送り続けている。 1個120円の卵を、毎月40個。月4,800円。安くはない。それでも毎月注文してくれる人たちがいる。 彼らが買っているのは、卵だけじゃないと思っている。うちの飼育方法に、うちの考え方に、うちが目指している未来に、投票してくれているんだと思っている。「こういう農業が続いてほしい」という意思表示として、毎月カートに入れてくれている。 その一票一票が、うちを4年間生かしてくれた。 4年前、「そんな高い卵は売れない」と言われた。今、卵はあるだけ売れる。これは僕の営業力でも、マーケティングの巧みさでもない。買ってくれた人たちが、次の人に伝えてくれた結果だ。 食べることは、生き方を選ぶことだ。そして、その選択が積み重なって、農業のかたちが少しずつ変わっていく。 僕はまだ29歳で、循環型農業の理想にはまだまだ届いていない。でも4年前より、確実に近づいている。それだけは断言できる。 次の4年で、どこまで行けるか。鶏の声を聞きながら、毎朝考えている。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 LINE登録で裏話が届きます → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio

豆腐屋のトラックを追いかけた29歳の告白

軽トラックが僕の車の前に止まった瞬間、心臓が跳ね上がった。荷台に「豆腐」の文字が見える。すぐにスマホを取り出して写真を撮る。そして慌てて車を止めて、運転手のおじさんに走り寄った。「すみません、さっきトラックを見たんですけど、豆腐屋さんですよね?おから、分けていただけませんか?」 おじさんは最初、怪訝な顔をした。当然だ。29歳の若造が突然現れて、廃棄物をくれと言うのだから。でも、事情を説明すると表情が変わった。「ああ、養鶏やってるのか。うちもおからの処分に困ってるんだよ」 こんなことを大学時代の同期に話したら、きっと「何やってるんだ」と笑われるだろう。でも、これが新規就農の現実だった。土地なし、金なし、経験なし。ゼロから始めた平飼い養鶏の、泥臭すぎる日常がここにある。 ## 捨てられる100キロのおからが、最高級の卵になるまで 佐賀県伊万里市の山間部。祖母の末子ばあちゃんが一人で営んでいた水菜農業を辞めさせ、僕は耕作放棄された金柑畑のハウスで養鶏を始めた。オランダ留学で見た循環型農業に憧れて、「環境に負荷をかけない、持続可能な農業をやりたい」という理想を胸に。 でも、理想と現実は違った。まず直面したのが餌の問題だ。 一般的な養鶏場では、配合飼料という工業製品を使う。トウモロコシや大豆粕を主原料とした、栄養バランスが計算された餌だ。でも、その原料の多くは海外産。アメリカやブラジルから船で運ばれてくる。これのどこが「循環型」なのか。 「地域にある未利用資源を活用できないだろうか」 そう考えて調べてみると、驚くべき事実が分かった。豆腐を作る過程で出る「おから」が、毎日大量に廃棄されているのだ。 近所の豆腐屋さんに恐る恐る電話をかけた。「あの、養鶏をやっているのですが、おからを分けていただけませんか?」 「ああ、ありがたい。うちも困ってるんです。毎回何百キロも出るんですが、産業廃棄物として処分するしかなくて。お金もかかるし...」 電話越しに聞こえる安堵の声。僕たちは餌が欲しい。豆腐屋さんは処分に困っている。完璧なウィンウィンの関係だった。 でも、問題があった。おからは恐ろしく腐りやすいのだ。 初めておからを持ち帰った日のことを覚えている。白くて柔らかい、豆腐の香りがするおから。「これなら鶏も喜ぶだろう」と思って一安心した。ところが、翌朝鶏舎に向かうと、異様な臭いが漂っている。おからが発酵を通り越して、腐敗していたのだ。 1日で腐る。2日経てば完全にアウト。これでは使い物にならない。 ## 大学時代の「無駄な知識」が救世主になった瞬間 行き詰まった僕は、必死に解決策を探した。図書館で発酵に関する本を読み漁る。インターネットで情報を検索する。そして、ふと思い出したのが大学時代の授業だった。 佐賀大学農学部で学んだ応用微生物学。当時は「テストのための暗記科目」だと思っていた。嫌気性発酵、好気性発酵、乳酸菌、酵母菌...。正直、「将来何の役に立つんだ」と思いながら勉強していた知識だった。 でも、今になってその知識が蘇る。「おからに米ぬかを混ぜて嫌気性発酵させれば、保存期間を延ばせるのではないか」 さっそく実験してみた。おからに米ぬかを混ぜ、空気に触れないよう密閉する。いわば「おからのぬか漬け」を作るのだ。 1日後、容器を開けてみると不思議なことが起きていた。おからが熱を持っている。手で触ると、ほんのり温かい。これが発酵熱だ。微生物が活動することで生まれる熱が、悪い雑菌を死滅させる。そして良い菌だけが残り、おからが長期保存できるようになる。 「学んだことって、こうやって活かされるんだな」 29歳になって、ようやく大学時代の勉強の意味を理解した。あの時の「無駄だと思った知識」が、今の僕の仕事を支えている。 ## 1件1件、手当たり次第に探し回った恥ずかしい日々 おからの保存方法は解決した。でも、次の問題が待っていた。どうやって継続的に餌を確保するか。 新規就農の現実は、想像以上に孤独で泥臭い。知り合いの農家もいない。販売ルートもない。餌の調達先もない。全てを一から開拓しなければならない。 まず、Googleマップで「豆腐屋」を検索した。伊万里市内に10件ほどヒットする。片っ端から電話をかけた。 「すみません、養鶏をやっているのですが、おからを分けていただけませんか?」 10件中、話を聞いてくれたのは3件。そのうち実際におからをもらえることになったのは1件だけだった。でも、それだけでは足りない。月2トンの餌が必要な僕の養鶏場には、圧倒的に量が不足していた。 そんな時、運命的な出会いがあった。 いつものように車で伊万里市内を走っていると、前を軽トラックが走っている。荷台に「○○豆腐店」の文字が見える。でも、その店名をGoogleで検索しても出てこない。小さな個人経営の豆腐屋で、ネットに情報がないのだ。 心臓がバクバクした。このチャンスを逃したら、二度と会えないかもしれない。信号で止まった瞬間、僕は慌てて車を路肩に停めた。スマホでトラックの写真を撮り、運転手のおじさんに走り寄る。 「すみません!さっきトラックを見たんですけど、豆腐屋さんですよね?」 おじさんは最初、警戒していた。当然だ。知らない若者が突然現れて、廃棄物をくれと言うのだから。でも、僕が必死に事情を説明すると、表情が和らいだ。 「ああ、養鶏やってるのか。うちもおからの処分に困ってるんだよ。週に200キロぐらい出るかな。全部持って行ってくれるなら助かる」 その日から、その豆腐屋さんとの取引が始まった。週2回、僕が軽トラックでおからを取りに行く。おじさんは「こんなに喜んでもらえるなんて」と言って、いつも笑顔で迎えてくれた。 ## 海沿いを走り回って見つけた「宝物」 おからだけでは、まだ餌が足りない。次に目をつけたのが「いりこ」だった。 伊万里市は海に面している。漁師さんがいるはずだ。でも、どこにいるのか分からない。漁協に電話してみたが、「個人の漁師を紹介することはできない」と断られた。 仕方なく、海沿いの道を車で走り回った。港を見つけては車を停め、漁師らしき人を探す。日焼けした顔、長靴、軽トラック。そんな人を見つけると、恥ずかしさを押し殺して声をかけた。 「すみません、養鶏をやっているのですが、いりこのくず、ありませんか?」 最初の数人は「そんなものはない」と言われた。でも、諦めずに続けていると、ある漁師さんが言った。 「いりこのくず?ああ、あるよ。でも商品にならないから、いつも捨ててるんだ。持って行ってくれるなら、タダでいいよ」 その漁師さんの倉庫を見せてもらった時の衝撃は忘れられない。大きな袋に入った「いりこのくず」が山積みになっている。形が崩れていたり、サイズが小さかったりで商品にならないものだが、栄養価は正規品と全く変わらない。 「これ、全部捨てるんですか?」 「そうだよ。処分にもお金がかかるから困ってるんだ」 僕の目には「宝の山」に見えた。良質なタンパク質の塊が、ゴミとして捨てられている。これこそ、僕が探していた「未利用資源」だった。 ## 醤油屋の「かす」が教えてくれたこと 餌の調達は、まだ続いた。今度は醤油屋さんだ。 伊万里市内の醤油屋さんに電話をかけた。「醤油を作る過程で出る『かす』を分けていただけませんか?」 「醤油かす?ああ、あるよ。でも、そんなもの欲しいの?」 醤油かすは、醤油を作る過程で出る副産物だ。大豆と小麦を発酵させた後に残る、茶色いペースト状のもの。人間は食べないが、アミノ酸が豊富で鶏には最高の餌になる。 醤油屋さんの工場を見学させてもらった。大きな木桶が並び、何年も発酵を続けている醤油の原料。その香りは、化学調味料では絶対に出せない深みがあった。 「この醤油かす、どうされているんですか?」 「月に50キロぐらい出るかな。いつも処分に困ってるんだ。肥料として畑に撒くこともあるけど、それも限界があるし...」 また同じパターンだった。品質は良いのに、使い道がなくて困っている。僕が引き取ることで、醤油屋さんも喜んでくれた。 ## 29歳の父親が学んだ「循環」の本当の意味 こうして1年かけて、僕は地域の餌調達ネットワークを構築した。豆腐屋さんからはおから、漁師さんからはいりこのくず、醤油屋さんからは醤油かす、農家さんからは野菜くず。全て「廃棄物」として捨てられるはずだったものだ。 でも、僕の鶏たちにとっては最高のご馳走になる。顔の見える人たちから、安全で新鮮な材料を仕入れる。大手飼料メーカーの配合飼料とは全く違う世界だった。 朝5時、鶏舎で発酵したおからを鶏たちに与える。2,000羽が一斉に集まってくる光景は圧巻だ。黄金色の卵黄、弾力のある卵白。この卵は今、銀座のミシュラン三つ星レストラン「ロオジエ」にも届いている。1個120円という価格でも、リピーター率は8割を超える。 捨てられるはずだったおからが、最高級の卵に変わる。これが本当の「循環」なのだと思う。 家に帰ると、4歳、2歳、0歳の3人の子供たちが迎えてくれる。「お父さん、今日は何をもらってきたの?」と4歳の長男が聞く。「おからだよ。これが美味しい卵になるんだ」と説明すると、目を輝かせて聞いてくれる。 妻は「また変なもの拾ってきて」と笑いながらも、僕のやっていることを理解してくれている。末子ばあちゃんも「啓は面白いことするねえ」と言って見守ってくれている。 満員電車に揺られることもない。上司の顔色を見る必要もない。朝は鶏の世話から始まり、夕方には家族と食卓を囲む。この田舎で、自分らしく豊かに暮らしている。 ## トラックを追いかけ続ける理由 新規就農から5年。今でも僕は新しい餌の調達先を探している。先日も、米屋さんのトラックを見かけて追いかけた。「米ぬか、分けていただけませんか?」 29歳でトラックを追いかけている。

日本で唯一のカカオ栽培を見て「農業観光」の可能性に震えた話

日本で唯一のカカオ栽培をやってる20代農家のクラウドファンディングを見つけた瞬間、僕は迷わず支援ボタンを押していた。理由?そんなものはない。ただ、「こんなことやってる奴がいるのか」という純粋な驚きと、同世代の農家への応援したい気持ちだけだった。 そのリターンが宮崎のアグリツーリズム体験だった。正直、観光農業なんて自分には関係ないと思っていた。佐賀の片田舎で2,000羽の鶏を相手に、毎日泥まみれになってる僕にとって、「観光」なんて遠い世界の話だった。 でも、この日帰りの宮崎ツアーが、僕の農業観を根底から変えることになる。 ## 豚に囲まれて気づいた「体験」の圧倒的価値 防護服を着て、消毒を済ませて放牧養豚の現場に足を踏み入れた瞬間、僕は圧倒された。 豚たちが一斉にこちらに向かってくる。こんなに近くで豚と接したのは人生初だった。普段、鶏と接している僕でさえ、その迫力に思わず後ずさりしてしまう。怖いと思うほど元気で、生命力に溢れていた。 「これは凄い」 その瞬間、僕の中で何かが変わった。AIが進歩して、何でもスマホで済むようになって、食べ物がどこから来るのかも分からない時代だからこそ、この「生の体験」が持つ価値は計り知れない。 自然栽培をやっている農園は、想像を超える広大さだった。元々豪農だった家の息子が、父親の農法を自然栽培に転換し、今度は観光農園として人々に体験してもらう場を作っている。機械もでかい。土地もでかい。でも何より、その野菜を実際に畑で食べる体験の価値がでかい。 そして、日本で唯一のカカオ栽培。カカオ豆を食べた瞬間の衝撃は忘れられない。「こんなに美味いのか」。チョコレートになる前の、生のカカオ豆の味。発酵から乾燥まで、全ての工程を日本で完結させる挑戦。3年かけて実をつけるカカオの木。その間はイチゴ栽培で食いつなぐ。 どの農家も、20代で農業を始めて、道なき道を歩んでいる。でも全員、目をキラキラさせて未来を語っていた。 ## AIが進むほど「手で触れる価値」が高まる理由 宮崎の空の広さ、海の近さ、強い波の音。晴れていたこともあって、気が良くて最高だった。こういう場所に住めたら楽しいだろうな、と心から思った。 でも、それ以上に感じたのは、これからの時代における「体験」の価値だった。 AIがどんどん便利になって、食事と生活、農業と生活がどんどん離れていく。スーパーで買う卵がどこから来るのか、誰も知らない。鶏がどんな環境で育っているのか、想像もしない。 だからこそ、実際に手で触れて、匂いを嗅いで、音を聞いて、味わう体験が、これまで以上に貴重になる。 僕が普段接している鶏も、都市部の人にとっては非日常そのものだ。2,000羽が一斉に鳴く声、羽ばたく音、独特の匂い。平飼いで自由に動き回る鶏たちの姿。卵を産む瞬間。雛が孵化する瞬間。 これらは全て、スマホの画面では絶対に体験できない。 ## 3つの農家が教えてくれた「連携」の可能性 今回のツアーで最も印象的だったのは、放牧養豚、自然栽培、カカオ栽培の3つの農家が連携してアグリツーリズムを作り上げていることだった。 一人では限界がある。でも、同じ志を持つ仲間と組めば、一つの地域で完結する体験ツアーが作れる。宮崎という土地の魅力も含めて、農業の多面性を見せることができる。 同世代で、同じ目線で、同じ未来を感じながら熱く語り合える仲間がいる。これは本当に素晴らしいことだ。 佐賀の伊万里でも、同じようなことができるはずだ。僕の平飼い養鶏、近隣の米農家、野菜農家。連携すれば、都市部からの体験ツアーを受け入れることができる。 カカオ栽培の若い農家が語っていた言葉が印象的だった。「カカオ豆って、発酵させる設備まで整えて初めて作れるんです。日本には発酵済みの豆しか入ってこないから、僕らは一から全部やらないといけない」。 3年間、実がならないカカオの木を育てながら、イチゴ栽培で食いつなぐ。そんな挑戦を20代でやっている人がいる。この国は、まだまだ捨てたものじゃない。 ## 「自然は手入れされているから美しい」という真実 ただし、観光農園をやる上で絶対に忘れてはいけないことがある。 以前読んだ小説で印象的だった一節を思い出す。「自然は極めて人工的だ」。日本庭園の美しい苔も、盆栽の見事な枝ぶりも、全て人の手が入っているから美しい。 誰も手入れしなければ、それは確かに「自然」だが、どんどん荒れて、腐って、見た目も悪くなる。 観光農園として人を受け入れるなら、ちゃんとデザインしなければならない。農家だけでなく、美的センスのある人がしっかりと入って、見せ方を考える必要がある。 お金もかかる。時間もかかる。でも、それだけの価値がある。 お客さんの期待を超える体験を提供する。「また来たい」「友達を連れてきたい」「ここに来ると落ち着く」。そう思ってもらえる場所を作るには、相当の覚悟と投資が必要だ。 ## 素ヱコ農園の次の一手 帰りの飛行機の中で、僕は素ヱコ農園の未来を考えていた。 2,000羽の鶏たちとの日常。朝5時の鶏舎での作業。卵を集める瞬間の充実感。これらの体験を、もっと多くの人に提供できるはずだ。 特に、都市部で働く20代、30代の人たち。毎日満員電車に揺られて、上司の顔色を伺って、自分が何のために働いているのか分からなくなっている人たち。 そんな人たちに、鶏の鳴き声で目覚める朝を体験してもらいたい。卵を産んだばかりの温かい卵を手に取る瞬間を味わってもらいたい。 今の設備では、まだお客さんの期待を超えることはできない。でも、利益を出して、銀行から融資を引っ張ってきて、想像を超える観光農園を作ることはできる。 農業4年目の僕に、そんな夢が膨らんでいる。 ## 支えてくれる人たちへの感謝 鶏は毎日の世話が必要だ。餌やり、健康チェック、卵の回収。1日でも空けるのは大変なことだ。 でも、スタッフのみんなが力を合わせてくれたから、今回の視察に行くことができた。3人の幼い子供たちを見てくれた妻にも、心から感謝している。 毎日の泥臭い作業の中で、時々こうして外の世界を見ることができる。新しい可能性に触れることができる。それは、周りの人たちの支えがあってこそだ。 宮崎で出会った20代の農家たちのように、僕も目をキラキラさせて未来を語り続けたい。観光農園という新しい挑戦に向けて、また一歩ずつ歩んでいこう。 レールを降りた先に、こんなに可能性が広がっているなんて、23歳で就農を決めた時は想像もしていなかった。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 スエコに直接メッセージを送りたい方はこちら → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio

宮崎で見た「農業の未来」が僕の養鶏場を変える

日本で唯一のカカオ栽培をやってる20代農家のクラウドファンディングを見つけた瞬間、僕は迷わず支援ボタンを押していた。理由?そんなものはない。ただ、「こんなことやってる奴がいるのか」という純粋な驚きと、同世代の農家への応援したい気持ちだけだった。 そのリターンが宮崎のアグリツーリズム体験だった。正直、観光農業なんて自分には関係ないと思っていた。佐賀の片田舎で2,000羽の鶏を相手に、毎日泥まみれになってる僕にとって、「観光」なんて遠い世界の話だった。 でも、この日帰りの宮崎ツアーが、僕の農業観を根底から変えることになる。 ## 豚に囲まれて気づいた「体験」の圧倒的価値 防護服を着て、消毒を済ませて放牧養豚の現場に足を踏み入れた瞬間、僕は圧倒された。 豚たちが一斉にこちらに向かってくる。こんなに近くで豚と接したのは人生初だった。普段、鶏と接している僕でさえ、その迫力に思わず後ずさりしてしまう。怖いと思うほど元気で、生命力に溢れていた。 「これは凄い」 その瞬間、僕の中で何かが変わった。AIが進歩して、何でもスマホで済むようになって、食べ物がどこから来るのかも分からない時代だからこそ、この「生の体験」が持つ価値は計り知れない。 自然栽培をやっている農園は、想像を超える広大さだった。元々豪農だった家の息子が、父親の農法を自然栽培に転換し、今度は観光農園として人々に体験してもらう場を作っている。機械もでかい。土地もでかい。でも何より、その野菜を実際に畑で食べる体験の価値がでかい。 そして、日本で唯一のカカオ栽培。カカオ豆を食べた瞬間の衝撃は忘れられない。「こんなに美味いのか」。チョコレートになる前の、生のカカオ豆の味。発酵から乾燥まで、全ての工程を日本で完結させる挑戦。3年かけて実をつけるカカオの木。その間はイチゴ栽培で食いつなぐ。 どの農家も、20代で農業を始めて、道なき道を歩んでいる。でも全員、目をキラキラさせて未来を語っていた。 ## AIが進むほど「手で触れる価値」が高まる理由 宮崎の空の広さ、海の近さ、強い波の音。晴れていたこともあって、気が良くて最高だった。こういう場所に住めたら楽しいだろうな、と心から思った。 でも、それ以上に感じたのは、これからの時代における「体験」の価値だった。 AIがどんどん便利になって、食事と生活、農業と生活がどんどん離れていく。スーパーで買う卵がどこから来るのか、誰も知らない。鶏がどんな環境で育っているのか、想像もしない。 だからこそ、実際に手で触れて、匂いを嗅いで、音を聞いて、味わう体験が、これまで以上に貴重になる。 僕が普段接している鶏も、都市部の人にとっては非日常そのものだ。2,000羽が一斉に鳴く声、羽ばたく音、独特の匂い。平飼いで自由に動き回る鶏たちの姿。卵を産む瞬間。雛が孵化する瞬間。 これらは全て、スマホの画面では絶対に体験できない。 ## 3つの農家が教えてくれた「連携」の可能性 今回のツアーで最も印象的だったのは、放牧養豚、自然栽培、カカオ栽培の3つの農家が連携してアグリツーリズムを作り上げていることだった。 一人では限界がある。でも、同じ志を持つ仲間と組めば、一つの地域で完結する体験ツアーが作れる。宮崎という土地の魅力も含めて、農業の多面性を見せることができる。 同世代で、同じ目線で、同じ未来を感じながら熱く語り合える仲間がいる。これは本当に素晴らしいことだ。 佐賀の伊万里でも、同じようなことができるはずだ。僕の平飼い養鶏、近隣の米農家、野菜農家。連携すれば、都市部からの体験ツアーを受け入れることができる。 ## 「自然は手入れされているから美しい」という真実 ただし、観光農園をやる上で絶対に忘れてはいけないことがある。 以前読んだ小説で印象的だった一節を思い出す。「自然は極めて人工的だ」。日本庭園の美しい苔も、盆栽の見事な枝ぶりも、全て人の手が入っているから美しい。 誰も手入れしなければ、それは確かに「自然」だが、どんどん荒れて、腐って、見た目も悪くなる。 観光農園として人を受け入れるなら、ちゃんとデザインしなければならない。農家だけでなく、美的センスのある人がしっかりと入って、見せ方を考える必要がある。 お金もかかる。時間もかかる。でも、それだけの価値がある。 ## 素ヱコ農園の次の一手 帰りの飛行機の中で、僕は素ヱコ農園の未来を考えていた。 2,000羽の鶏たちとの日常。朝5時の鶏舎での作業。卵を集める瞬間の充実感。これらの体験を、もっと多くの人に提供できるはずだ。 特に、都市部で働く20代、30代の人たち。毎日満員電車に揺られて、上司の顔色を伺って、自分が何のために働いているのか分からなくなっている人たち。 そんな人たちが、朝5時の鶏舎で2,000羽の鶏と向き合う体験をしたらどうなるだろう。自分の手で卵を集めて、その卵で作った料理を食べる体験をしたらどうなるだろう。 きっと、何かが変わる。 僕自身、23歳で大手企業の内定を蹴って、祖母の末子ばあちゃんが一人で営んでいた農地に飛び込んだ。土地なし、金なし、経験なしの状態から、クラウドファンディングで1,100万円を調達して、今の素ヱコ農園を作り上げた。 その過程で感じた「自分で決めて、自分で動いて、自分で稼ぐ」充実感を、体験として提供できるかもしれない。 宮崎で出会った3人の農家たちのように、僕も地域の仲間と連携して、佐賀・伊万里のアグリツーリズムを作り上げたい。年間50万人を熱狂させる農園という僕の野望も、案外現実的な目標かもしれない。 レールを降りた先にある景色を、もっと多くの人に見せていきたい。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 スエコに直接メッセージを送りたい方はこちら → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio