佐賀農家の日々

佐賀県伊万里市で便利になった世の中で、手間のかかるストレスフリーの平飼いで外国産の餌に頼らないこだわりの餌作りを行っています。

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捨てられるおからを卵に変える。循環型養鶏、泥臭い現場の話

> 【まとめ】佐賀の平飼い養鶏家が、豆腐屋・漁師・農家から「捨てられる食材」を集めて鶏の餌にする循環型農業の現場と、その手作り感あふれる泥臭い始め方を語る。 朝、おからの入ったコンテナに手を突っ込むと、中が熱い。前日に仕込んだ発酵おからが、一晩かけて40度近くまで温度を上げている。これが「ちゃんと発酵してる」サインだ。 > この記事では、素ヱコ農園が実践する循環型養鶏の「餌づくり」について、応用微生物学の知見と泥臭い現場の手作業という2つの視点から掘り下げます。結論は「質がいいのに捨てられるものが、最高の餌になる」です。 --- ## オランダ留学が教えてくれた「捨てる」という罪 23歳でオランダに渡った。 農業先進国の農場を歩き回って、僕が最も衝撃を受けたのは「技術の高さ」ではなかった。それは、資源の使い方への執着だった。生産の連鎖の中で「捨てる」という選択肢が、できる限り排除されている。廃棄物は次の生産の投入物になる。そういう設計思想が、農場のあちこちに組み込まれていた。 帰国して、祖母・末子ばあちゃんの農地で養鶏をゼロから始めることを決めた時、あの光景が頭にあった。どうせ田舎でやるなら、循環を作りたい。環境のことを考えた仕事がしたい。そう思った。 ただ、理想はきれいでも、現実はそうじゃない。 土地なし、金なし、経験なし。耕作放棄された金柑畑のハウスを手作りで改修して、クラウドファンディングで資金を集めて、鶏を迎えた。「循環型農業」という言葉の裏側にあるのは、そういう泥臭い手作業の積み重ねだった。 そして最初にぶつかった壁が「餌」だった。 --- ## Googleマップと軽トラで始めた、餌の調達劇 鶏は何でも食べる。魚も、米も、野菜も、豆腐の搾りかすも。この「雑食性」こそが、循環型農業との相性のよさだと気づいた。 地域には「未利用資源」が眠っている。人は食べないけれど、栄養価は高い。規格外だから売れない。腐りやすいから流通に乗らない。そういう食材が、あちこちで捨てられている。それを餌にすれば、地域の廃棄を減らしながら、鶏を育てられる。 理屈はわかった。でも、どこに誰がいるかが、まったくわからない。 豆腐屋の知り合いなんていない。漁師の知り合いもいない。農家との繋がりも、まだ薄かった。 だから、Googleマップを開いた。「豆腐屋 伊万里」で検索して、出てきた店に片っ端から電話をかけた。「おから、いただけませんか」と。 でも、Googleマップに載っていない豆腐屋もある。 ある日、運転中に軽トラが目の前に止まった。荷台に「豆腐」の文字が見えた。反射的にスマホで写真を撮って、車を止めて、走り寄った。 「さっきトラックを見たんですけど、豆腐屋さんですよね?おから、分けていただけませんか?」 おじさんは最初、怪訝な顔をした。当然だ。29歳の若造が突然走ってきて、廃棄物をくれと言うのだから。でも事情を話すと、表情が変わった。「うちもおからの処分に困ってるんだよ」と。 この話は以前[「豆腐屋のトラックを追いかけた29歳の告白」](https://saga-nouka.com/entry/2026/03/10/210722)でも書いたが、あの瞬間に循環の糸が一本つながった感覚は、今でも忘れられない。 漁師さんを探した時も似たようなものだった。海沿いの道をひたすら車で走って、船を見つけたら止まって話しかける。「いり粉のくず、ありませんか」と。 1件1件、手当たり次第に。それが、新規就農の現実だった。 --- ## 大学で学んだ応用微生物学が、田舎の養鶏場で活きた おからは腐る。 仕入れてから1日経つと臭いが変わり始め、2日経つとほぼ使えなくなる。せっかく集めても、鮮度が保てなければ意味がない。 ここで大学時代の記憶が蘇った。 佐賀大学農学部で学んだ「応用微生物学」。正直、当時はそこまで真剣に向き合っていなかった。でも、現場に立った時に、その知識が突然リアルになった。 おからに米ぬかを混ぜて、密閉状態にする。 これは「嫌気性発酵」と呼ばれるプロセスだ。空気に触れさせないことで、酸素のない環境でも増殖できる乳酸菌などの有益な菌が優勢になる。その菌が増える過程で熱が発生し、腐敗の原因となる雑菌が死滅していく。 ぬか漬けの原理と同じだ。素人にわかりやすく言えば「おからのぬか漬け」を作っている感じ、と言えばいいかもしれない。 翌朝、コンテナに手を入れると中が熱い。それが「ちゃんと発酵している」証拠だ。この熱の手触りが、僕にとっての品質チェックになっている。 学んだことは、いつか活きる。それだけは本当だと思う。 今は、おからだけでなく、農家さんからの米や野菜くず、漁師さんからのいり粉、醤油屋さんからの醤油かすも使っている。どれも「顔の見える人」から仕入れている。何が入っているかを僕自身がわかっている餌だ。 **「顔の見えない産業廃棄物」ではなく、「顔の見える循環資源」を使う。これが、うちの餌づくりのこだわりだ。** --- ## 「捨てられる」と「質が悪い」は、全然違う 勘違いされやすいのだが、「廃棄されるもの」と「質が悪いもの」は別物だ。 おからは、大豆の栄養がたっぷり残っている。タンパク質も食物繊維も豊富だ。捨てられているのは、「腐りやすいから流通に乗らない」という理由だけだ。漁師さんのいり粉も、農家さんの規格外野菜も、同じだ。品質は高い。ただ、いろんな事情で市場に出られないだけ。 **質がいいのに、捨てられている。それを餌にしている。** これが、うちの卵の「見えにくい価値」だと思っている。 豆腐屋さんは、おからの処分にお金がかかっていた。産業廃棄物として費用を払って捨てていた。僕らがもらうことで、その費用がなくなる。漁師さんも、捨て場に困っていたいり粉が、価値ある餌になる。 [「これから」](https://saga-nouka.com/entry/2025/05/18/215531)という記事の中で、「循環型農業を実現させて、農業の多面的な機能と、福祉や観光を絡めて、これからの世界に対してメッセージを発していきたい」と書いたことがある。その出発点が、この小さな餌づくりだと思っている。 Googleマップで豆腐屋を探して、走り回って、軽トラを追いかけて、海沿いで漁師に声をかける。そういう泥臭い手作業の先に、ウィンウィンの関係が生まれる。捨てられるはずだったものが、卵という価値に変わって、誰かの食卓に届く。 **鶏は、地域の廃棄物を卵に変える錬金術師だ。** 大げさに聞こえるかもしれない。でも、毎朝おからのコンテナに手を突っ込んで、その熱さを確かめるたびに、そう思う。 --- 6年前、土地も金も経験もなかった。循環型農業がやりたいという気持ちだけがあった。 今は、顔の見える豆腐屋さんと、漁師さんと、農家さんと、醤油屋さんがいる。彼らが「困っている」と言っていたものが、2,000羽の鶏の餌になり、1個120円の卵になって、銀座のレストランや誰かの朝ごはんに届く。 その連鎖を、一本ずつ手で繋いできた。 格好よくはない。でも、これが僕の仕事だ。そして、この仕事を選んでよかったと、今は心から思う。 レールを降りた先にも、ちゃんと面白いものがある。 --- ### よくある質問 **Q. 平飼い卵の餌にこだわると、卵の品質は変わりますか?** A. 変わります。鶏が食べるものが卵の味と栄養に直結するため、顔の見える地域食材を使った発酵飼料は、市販の配合飼料だけで育てた卵と風味が異なります。素ヱコ農園の卵のレビューが4.93/5.0を維持しているのも、この餌づくりが一因だと思っています。 **Q. おからを発酵させて鶏に与えるのは安全ですか?** A. 嫌気性発酵のプロセスで雑菌が死滅するため、むしろ生のおからより安全性が高まります。発酵によって有益な菌が優勢になり、腐敗菌が抑制された状態で鶏に与えています。大学で応用微生物学を学んだ知識が、この判断の根拠になっています。 **Q. 循環型農業に興味があるのですが、新規就農でも同じことはできますか?** A. できます。ただ、最初は「知り合いがゼロ」という現実があります。僕はGoogleマップで豆腐屋を検索し、走行中に軽トラを追いかけ、海沿いで漁師に声をかけるところから始めました。手作業で1件1件繋いでいくしかない。それが現実ですが、繋がれば必ずウィンウィンの関係になれます。 --- 🐔 素ヱコ農園の「ばあちゃんの昔ながらのたまご」はこちら → https://suecofarm.com?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 📻 ポッドキャストで毎日の裏側を配信中 → https://www.spreaker.com/show/6886334?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio 💬 LINE登録で裏話が届きます → https://lin.ee/otoWN5v?utm_source=note&utm_medium=blog&utm_campaign=suecoradio